別　名 − 所在地 山梨県南アルプス市古市場 築城者 大井氏 築城年 南北朝時代 廃城年 − 現　状 真豊院 遺　構 − 移築建造物 − 再建建造物 − 史跡指定 − 評　価 　甲斐国西部の国人領主大井氏の居館跡と伝わる。武田信武の子信明が大井氏を称したが、本家筋で甲斐守護であった武田氏との折り合いは悪く、戦国時代に至るまで両者は幾度となく争いを繰り広げた。 　武田氏の守護としての歴史は必ずしも安定はしておらず、時には当主が甲斐を追われて入国できないという事態まで起きていた。武田信虎が登場して国内統一を果たすまで、甲斐は国人領主同士の争いが絶え間なく続いていた。 　大井信達はそれら有力な国人衆と姻戚を結び、駿河の今川氏を後ろ盾として宗家の武田氏と争い、時には宗家を凌駕する勢いを持っていた。永正１２年（１５１５）に信虎は信達の居城である椿城を攻めたが、この戦いで武田勢は深田に足を取られて多数が討ち取られたとされている。しかし椿城は山城であり深田に囲まれていたという描写から、古市場の大井館が戦いの場ではないかという説がある。 　翌年の永正１３年（１５１６）に今川氏は甲斐へ侵攻したが戦上手の武田信虎に敗れて撤退し、それを機に信達は信虎と和睦した。このときに大井夫人が信虎の正室として輿入れした。永正１７年（１５２０）に信達は今井氏や栗原氏らの国人衆を巻き込み信虎に反旗を翻したが、戦いに敗れた信達は隠退し信虎の甲斐支配は盤石な体制へと推移した。その後の大井氏は武田氏の家臣として続いた。 　甲斐武田氏とその一族や重臣たちの居館跡廻りは続く。日も傾きかけてきた中で物言わぬ石碑や案内板との対話を繰り返すのだが、その時間は自分にとっては至福の時となった。何もない場所を訪ねて何が面白いのかという人もいるが、その土地で武将たちが一族や民衆を守るために戦ったことは事実である。その舞台を歩く喜びは何物にも代えがたい。 　武田氏が甲斐を固める時代の好敵手として現れる大井氏の故郷は真豊院という寂れた寺院となっている。周辺を歩いてみたが、堀跡かもしれないと思える程度の水路が残る程度だった。しかし大井信達はここで必死に武田信虎に抗ったわけである。今ではその残影すら感じられないが、たった一条の溝でも十分にそのわずかな息吹を感じることはできる。 ＪＲ中央本線・身延線「甲府」下車　山梨交通バス「鰍沢営業所」行で「古市場」下車　徒歩５分 甲斐の山城と館／戎光祥出版 2025/01/03