別　名 − 所在地 山梨県南アルプス市中野 築城者 秋山光朝 築城年 平安時代末期 廃城年 − 現　状 山林 遺　構 郭・土塁・空堀 移築建造物 − 再建建造物 − 史跡指定 − 評　価 　 　 　中野城の歴史は伝承に支えられているのみで、はっきりとした歴史の裏付けはない。言い伝えでは新羅五郎種久が中野城を築いたということになっているが、この人物がどの時代を生きた人なのかはわからない。渡来系の人物とも思えるし、武田氏の始祖である新羅三郎義光との付会と思えなくもない。 　もっとも知られているのは甲斐源氏の秋山太郎光朝が中野城に立て籠もったという伝承である。治承４年（１１８０）に諸国の源氏が平氏追討の挙兵をすると甲斐源氏の一族も立ち上がった。木曾義仲や新宮行家らと違い、武田信義を筆頭とする甲斐源氏の武士たちは源頼朝には協力的だったように思えるが、屋島と壇ノ浦の戦いで敗れた平氏が滅び去ると、頼朝の疑心は平氏追討の合戦で多大な功績のあった甲斐源氏の面々へ向けられた。 　その中でも秋山光朝は平重盛の娘を妻としていたこともあり、あらぬ謀反の嫌疑をかけられて鎌倉からの追討軍に追い詰められ、中野城へ逃げ込んで最期は自刃したと伝えられている。最期を遂げた場所は中野城ではなく雨鳴城とする説もあるが、光朝は鎌倉で討ち取られたというのが真実であろう。仮に甲斐で討たれたとしても雨鳴山へ逃げ込んだというだけで、本格的な築城はされていないと思う。 　そうなると中野城の築城はもっと後年のこととなり、室町時代から戦国時代にかけての築城と考えられ、時代背景や場所的に考察すると宗家の武田氏と争った大井氏の手が加わっているのではないかと思う。尾根続きの雨鳴城と東麓に広がる台地に築いた椿城とともに、領国の防衛線を構築していたように見える。 中野城 登山道入口と案内板 二の郭 主郭　虎口 主郭　土塁 主郭　土塁 主郭 細尾根 細尾根 細尾根の土塁 三の郭 三の郭　土塁 東面の崩落箇所 四の郭 中野城からの眺望 　秋山氏の悲運を伝える中野城へ登頂することがこの日の目標だった。甲府市や韮崎市と違って南アルプス市は鉄道の路線から遠く隔たっており、往路は良くても帰路のことを考えると手が出せなかった。最寄りのバスも休日しか運行しておらず、かなり訪れにくい場所である。周辺にも魅力的な城は多くはないが、甲斐源氏一族の故地という歴史的な重要性を考えると訪ねてみたくなる土地でもある。 　標高１０２５メートルを数える中野城は手強い山城であるが、林道があるおかげで相当の高度を稼ぐことができるのはありがたい。城山の西に桜池と自然公園があり、駐車場とトイレが併設されているが、中野城への登山道入口はその少し手前にある。案内板と縄張図を頭に叩き込んで山道へと入った。 　いったん鞍部へ下ってから再び登りとなるが、道中は特に危険個所もなく傾斜も緩やかだった。登山道入口から山頂までは約２０分なのでまずまずのハイペースである。兵を駐屯させるのに都合の良さそうな平場を経て二の郭が見えてきた。さらに北へ進むと主郭の虎口が出迎えてくれる。土塁は低いが山城としては割としっかりとした虎口である。 　一段高くなった主郭に案内板が設置されており、西側に低い土塁が見られる。主郭から細尾根へ進むが、かじかの岩と呼ばれる東側はかなり崩落が進んでおり、ここは中野城の遺構の中でも危険な部類に入る。細尾根は土塁を伴い一部で櫓台のような高まりを見せる。堀切は見られないが、強いて挙げれば細尾根から三の郭へ入る箇所がそれらしく思える。 　三の郭は城内でもっとも広い曲輪であり、東側に低い土塁が築かれている。やはりここも崩落が激しくオーバーハングしている箇所もあるので、あまり崖沿いには近づかないように注意して歩きたい。そこから先へ進むと四の郭があり城域が終わる。全体的に見れば曲輪の削平も甘く、ややもすれば旧式に感じる山城であるが、何と言ってもこの高さであり、それほど敵襲への備えは固める必要もなかったのだろう。細尾根の土塁上から眺める甲斐盆地の風景は相変わらず見事で、いつまでもここにいたくなるような心地良さがあった。 ＪＲ身延線「鰍沢口」下車　ホリデーバス「平林」行で「西小前」下車　徒歩４０分 甲斐の山城と館／戎光祥出版・中野城跡案内板 2025/01/03