別　名 − 所在地 山梨県南アルプス市湯沢 築城者 秋山光朝 築城年 平安時代末期 廃城年 − 現　状 山林 遺　構 郭・土塁・堀切 移築建造物 − 再建建造物 − 史跡指定 − 評　価 　雨鳴城の歴史は尾根続きの中野城と混同されており、いずれも新羅五郎種久が築城し、その後に秋山光朝が城主だったことを伝えている。秋山光朝は秋山氏の祖となった武将だが、甲斐源氏の勢力拡大を恐れた源頼朝の指図により追手が迫り、文治元年（１１８５）に中野城もしくは雨鳴城で自害したと伝わっている。 　地元に伝わる雨鳴山の由来は、雨が降る前に山鳴りが起きることからその名が付けられたという。それは遠い昔に非業の死を遂げた光朝の霊が起こす山鳴りということである。このように地元では光朝はやはり雨鳴城で自刃を遂げたということになっている。 　雨鳴城についての伝承はそれだけだが、平安時代末期に築かれた城ということは考えづらく、光朝自身も鎌倉で捕らえられて処刑されたと思われるため、雨鳴城の築城時期は残る遺構から室町時代以降と考えて良いと思う。その最盛期は戦国時代と思われるが、当時のこの一帯を領有していたのは大井氏であり、同族の武田氏と激しく争った時代に雨鳴城は詰めの城として手が加えられ、その後に武田氏による改修を受けた姿が雨鳴城の最終形態であると自分は考えている。 登山道入口 登山道 平林天神社 南尾根　堀切 主郭 主郭　土塁 主郭　土塁 堀切 二の郭 堀切 堀切 堀切と三の郭 三の郭 三の郭　切岸 四の郭 堀切 西尾根の土橋 雨鳴城からの眺望 　雨鳴城はその名の響きがとても詩的に感じられて、以前から訪ねてみたい山城だった。しかしながら単独で訪れるのはかなり難しい場所であり、また標高も８３０メートルを誇り、山城としてはかなり高い場所に築かれている。 　友人と南アルプス市から富士川町にかけての城館を廻る機会があり、中野城と雨鳴城をまとめて踏査することができた。２つの城は尾根続きで行けないこともないが、途中に崩落している箇所もあるので、やはり一度下山してから別々に登るほうが無難である。 　中野城から平林の集落まで南下して平林天神社の参道を目指すと良い。林道には獣除けのゲートがあるが、通過したあとに閉じれば問題はない。参道の入口に鳥居があり平林天神社への山道が続いている。足場も悪く心もとないが、道は明瞭で迷うことはない。途中に沢や湧水があるようで晴天続きでも道がぬかるんでいる箇所があったが、山城の生命線である飲料水の確保については問題なかったようである。 　神さびた平林天神社の凛々しい姿を横目にしながら、その奥へと続く尾根を登る。少しばかり急な傾斜だが、ここまで来れば行程の３分の２は過ぎており雨鳴城は目と鼻の先である。小さな曲輪を通り過ぎて斜面を這い上がると唐突に主郭が広がる。主郭の周囲が低い土塁で囲まれた姿はこれまでに見てきた武田氏の山城と重なる。規模こそ違うが甲府の要害山城がそうであり、白山城や真篠城もこのような風景だった。 　浅い堀切を越えると二の郭があり、その向こう側にある堀切は思わず声が上がるほど大きくて立派なものだった。近世も里道が堀切を通っていたので多少の拡張はあるのかもしれないが、それを差し引いても見事な遺構だった。その先は長細い三の郭となり土塁が盛られた四の郭へと続いている。 　そこから西へ延びる尾根は中野城方面へと続くが、この尾根も人工的に左右が削り落とされた土橋となっており、一騎駆けのような姿を見せている。高天神城にもこのような遺構があったと記憶しているが、これもまた武田氏の特色のひとつと言えるのかもしれない。この細尾根を断ち切るように小さな堀切があるが、ここまでが雨鳴城の城域となる。 　艦船に例えるなら僚艦とも言える中野城と比較すると小ぶりな城ではあるが、全体を見回すと雨鳴城のほうが新しさが感じられる。中野城のほうが上位の位置関係にあり、雨鳴城はその支城と考えて差し支えないが、戦国時代になると雨鳴城が重きをなしていたのではないかと思えるような遺構が残っている。雨鳴城は眺望こそ利かないが、ワクワクするような冒険心が感じられてとても気持ちの良い登山だった。入口がわかりづらいことを除けば、特に危険な個所もなく登りやすい山城なので、ぜひとも訪れてもらいたいと思う。 ＪＲ身延線「鰍沢口」下車　ホリデーバス「平林」行で「新梨」下車　徒歩３０分 甲斐の山城と館／戎光祥出版 2025/01/03