別　名 − 所在地 長野県中野市中野 築城者 高梨政盛 築城年 永正年間（１５０４〜２１） 廃城年 慶長３年（１５９８） 現　状 山林 遺　構 郭・石積・土塁・堀切 移築建造物 − 再建建造物 − 史跡指定 長野県指定史跡 評　価 　 　 　鴨ヶ嶽城の成り立ちは不明であるが、平安時代末期から続いた中野氏によって築かれたとする説があり、その中野氏を滅ぼした高梨政盛が中野に拠点を移した永正年間（１５０４〜２１）に本格的な築城がされたと考えられる。 　政盛は姻戚関係にあった越後守護代の長尾為景と結び勢力を拡大させ、高梨氏は政盛の時代に全盛期を迎えることとなる。政盛没後に家督を継いだ澄頼は長尾氏と上杉氏との争いに巻き込まれ、周辺の豪族たちが上杉方に味方をしたため孤立し、さらに北進する村上氏の侵食を受けるなどして苦戦を強いられた。 　政頼が当主になると長尾為景の支援もあり勢力を盛り返したが、弘治３年（１５５７）に善光寺平へ進出した武田信玄の圧迫を受け、上杉謙信の支援を頼みつつ抵抗を続けたが、永禄２年（１５５９）に高坂昌信の攻撃により中野小館とともに鴨ヶ嶽城も落城した。政頼は飯山城へ退却し、高梨氏の旧領は武田氏の支配下となった。天正１０年（１５８２）に武田氏が滅び、相次いで本能寺の変が起きると北信濃は上杉景勝に帰属し、天正１８年（１５９０）に高梨氏はようやく旧領の中野へ戻るが、慶長３年（１５９８）に景勝の会津移封に従い、鴨ヶ嶽城は廃城となった。 鴨ヶ嶽城 登山道入口 箱山峠 登山道 西尾根　物見台 北尾根先端の曲輪 堀切 堀切 主郭 堀切 二の郭 案内板 二の郭　井戸跡 堀切 三の郭 堀切 堀切 堀切 四の郭 南尾根　腰曲輪 鴨ヶ嶽城からの眺望 　積雪の影響で当初に予定していた仙当城をあきらめ、飯山方面へ移動したあとは中野市の城館を訪ねることになった。壁田城と替佐城は以前から訪ねてみたかった城なので、禍を転じて福と為すかたちとなった。 　その後は中野市街にある高梨氏の居館を目指すことになったが、居館を訪ねるのであれば詰め城の鴨ヶ嶽城へ登らないわけにはいかない。比高差はざっと３百メートルを数える峻険な山城であるが、箱山トンネルまで車で登ったおかげで高度を稼ぐことができた。トンネルの手前に駐車可能なスペースがあり、鴨ヶ嶽城への案内標識が設置されている。フェンスをくぐり抜けて登山道を歩き始めると程なくして箱山峠の巨大な切通しが出現する。北へ登れば箱山城があるが、今回は欲張らずに鴨ヶ嶽城と鎌ヶ嶽城だけを目指した。 　登山道は意外と快適で数人のハイカーと出会った。尾根に近づくにつれて傾斜が増して息が上がり、ずいぶん長く歩いたつもりでいたが、箱山トンネルから２０分ちょっとで北尾根の曲輪へと着いていた。浅い堀切を越えて歩き続けるとやや大き目の堀切があり、その向こうに主郭が待っていた。 　主郭はあっさりとしたもので木製の古びた案内板があったが、剥離しているためにほとんど判読不能だった。主郭と二の郭を隔てる堀切は巨大で下りるのがやっとという傾斜である。木製の階段を登ると眺望が開ける二の郭で真新しい案内板が設置されている。よく見れば岩石に高梨氏居城の井戸という文字が刻まれた場所があり、石組の雨水溜めが残されていた。 　わずかながら土塁が残る三の郭を経て四の郭へ向かうが、ここの堀切も巨大であり巻き道を利用して降りた。四の郭から南には段々となった曲輪が配置され堀切を隔てて鎌ヶ嶽城へと続く。鴨ヶ嶽城は実質的に鴨ヶ嶽城の曲輪の一部であろう。なぜ連なる尾根に並ぶ曲輪を異なる名称で呼ぶのかはわからないが、後付けで造られた曲輪なのかもしれないし、あるいは武田氏が接収した後に増設された可能性もあると思う。 　最初は登るつもりはなかった鴨ヶ嶽城だが、現地に来た高揚感と勢いで一気に登り詰めてしまった。これが大正解であり山城の魅力が凝縮されたような城であった。個人的に細い尾根に深い堀切が幾重にも掘られた山城が好きなのだが、鴨ヶ嶽城はその要素を存分に兼ね備えており、それまでの疲労感は分泌されるアドレナリンでどこかへ吹っ飛んでしまったようだった。まだ未発見の曲輪がありそうで赤色立体地図を見ると東尾根には明確な城郭遺構がありそうに見える。これからこの城を訪ねる方にはぜひ踏査してもらいたい。 長野電鉄長野線「中野松川」下車　徒歩６０分 戦国信濃の城郭／戎光祥出版 2024/04/04